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2016年02月26日

Kindle版 遺言執行士のお仕事

Kindle版 遺言執行士のお仕事



遺言執行士のお仕事 (リーガルファンタジーシリーズ)

 遺言執行士――故人の遺言を聞き取るための特殊な呪術『遺言読取呪法』、墓標から故人のスキルを抜き取り相続人に承継させる『能力承継呪法』の遣い手。若き遺言執行士が、後継者問題に巻き込まれた魔銃道場主の孫娘を救うために奮戦する。


 遺言執行士――故人の遺言を聞き取り、遺言通りに遺産が承継されるように監督する職業。故人の遺言を聞き取るための特殊な呪術『遺言読取呪法(ラストウィルリーディング)』、墓標から故人のスキルを抜き取り相続人に承継させる『能力承継呪法(スキルサクセション)』の他、相続法を初めとした民事法の法律知識も必要なため、隣接法律職と呼ばれている。なお、遺言執行を妨害する者がいる場合は、正当行為として武力を以て排除することが許されている。
 水城真人は、祖母から無理やり押し付けられる形で、水城遺言執行士事務所を継いだ。事務所でバイトをしている幼馴染の江上美里の助けを借りながら、遺言執行士として成長していく。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
冒頭部抜粋

 遺言執行士のお仕事
                       大滝七夕

 1、遺言執行士

 紺色のジャージを着た若い男が館の庭を全力疾走していた。石畳みの道の片隅に、今しがた使用人が集めたばかりの落ち葉が舞った。
「ああ!せっかく集めた落ち葉が!お坊ちゃま!そんなに慌てて如何なさったのですか……?」
 使用人の爺さんが声をかけたが、若い男は、目もくれずに、館に向かって駆けていた。
 何しろ、広すぎる庭である。庭だけでも、一つの村が丸ごと収まりそうなほど広大なのだ。
 ここは、ダーフォ島のダーフォ王国。その首都ピンアン城下町の郊外だ。鬱蒼とした森に囲まれた静かな館である。王族の別荘地と見まがうような広大な敷地を有していた。
 ダーフォ島は、世界のほぼ中心に位置しているため、四季がはっきりとして最も住み心地が良いと言われる島国である。同時に世界で最も高低差の激しい島だった。
 島の真ん中に鎮座する幽冥山脈の奥地には、天に向かってそびえ、雲を突き付けてもまだ頂上の見えないタワーのような山――天空山と、漆黒の闇に包まれ底の見えない深い洞窟――鬼の風穴がある。
 天空山は神の住む天空の世界へ、鬼の風穴は妖魔の住む魔界へとつながっているとうわさされており、世界の中心にして、天と地がつながる特別な島と目されている。
 若い男は館の庭を駆け続けた。この庭からも、ダーフォ島のシンボルとも言うべき天空山が見えた。普段なら見上げる度に天空の世界へのあこがれを抱かせる山だが、今、若い男の視界には入らなかった。
 やがて、敷地の規模の割には、こじんまりとした木造瓦葺二階建ての館が現れた。
「婆ちゃん……。持ち答えてくれよ……。俺が駆けつけるまで死ぬなよ……」
 そうつぶやいた若い男の顔は、上気していた。少し肌寒い風が吹いているというのに、額には汗を浮かべていた。よっぽど、慌てて駆けてきたのだろう。それも相当に長い距離を全力疾走してきたと見える。
 荒い息を吐いており、できることならば、地面にへたり込みたいという様子。だが、若い男は足を止めない。
 身長は一七〇センチ前後と低くも高くもない平均的な高さである。それなりに鍛えているらしく、肩幅が広く、がっしりとした体格だ。黒いショートカットの髪型にシャープな顔立ち。目が少し大きく、幼さを感じさせる。
 平常時ならば、人を和ませる柔和な目つきをしているはずだ。だが、今、若い男の目には、動揺の色が浮かんでいた。
 若い男は、高級旅館を思わせる大きな玄関に飛び込むと、靴を脱ぐのも忘れて、一階の一番奥にある寝室へ向かって廊下をバタバタと駆けた。
 男の足音に呼応するように寝室の引き戸が開け放たれた。若い女が顔を出した。
 身長は、若い男よりほんの少し低い程度だから、女としては高い方だろう。金銀細工のようなボブヘアに細面の顔立ち。やや高めの鼻に、濃い睫を宿したパッチリとした瞳。それに、思わず、触れたくなるような白く艶のある肌。
 身にまとっているのはネイビージャケットに白シャツと白パンツ。シャツがはち切れんばかりに大きく盛り上がった胸、蜂のように括れた腰とふっくらとしたヒップ。と、男ならば誰でも、見惚れてしまうようなセクシーな体つきをした女である。女が若い男の腕を引っ張って、寝室に引きずり込んだ。
「真人くん!」
「美里ちゃん!婆ちゃんは!」
「間に合ってよかったわ!」
 畳の敷かれた部屋である。広さは十二畳。その真ん中に布団が敷かれていて、老婆が眠っていた。
 ショートカットの白髪に厳格そうな顔つきをしている。仰向けになって目を閉じていたが、四角の額縁メガネを掛けていた。
 若い男――真人は、老婆の枕元にしゃがんだ。
「あっ……。真人君、土足はだめよ……」
 と、若い女――美里が小声でたしなめたが、真人は耳を貸さない。老婆を揺さぶるばかりだ。
「婆ちゃん!しっかりして!」
 老婆は、反応しなかった。
「ま、まさか!もう……!婆ちゃん!」
 真人は、老婆の鼻先に手を近づけた。息をしているかどうか確かめるためだ。
「真人や……。私は、まだ、生きておるぞ……かろうじてな」
 老婆が目を開き、口を動かした。だが、その声は弱弱しかった。
「婆ちゃん!よかった!」
「じゃが、まもなく、寿命が尽きよう……」
「そんな!婆ちゃん、死ぬのは早すぎるよ。だって、まだ七十八歳でしょ!」
「そうじゃ……。もうそんな年じゃったんじゃなあ。お前が生まれた時は、私は六十だったが、もう十八年も経ってしまったのじゃなあ。せめてお前が嫁をもらうまでは生きたいものじゃが……」
「そうだよ!婆ちゃんには長生きしてもらわないと!それに、俺、婆ちゃんに、まだ、何も、孝行していない!」
「おお……親孝行ならぬ祖母孝行者の孫じゃのう……」
「そうだよ。父さんと母さんのいない俺にとっては、婆ちゃんが親なんだ。親孝行するのが当然だよ!」
「おお……。なんとよくできた孫じゃ……。それなら、お前に一つ頼みがある。内密の頼み事じゃ。耳を貸してくれんか?」
「うん?」
 真人は、祖母の口元に耳を近づけた。一言一言を聞き漏らさないように神経を傾けた。
 暫しの沈黙――。
 祖母は何も言わなかった。
 まさか!息絶えてしまったのか!
posted by ノベル時代社 at 21:06| Kindle版 遺言執行士のお仕事
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