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2016年02月26日

Kindle版 よろず暗殺仕ります!暗殺屋(アサシンヤ)疾風忍

Kindle版 よろず暗殺仕ります!暗殺屋(アサシンヤ)疾風忍



よろず暗殺仕ります!暗殺屋(アサシンヤ)疾風忍

 魔王を瞬殺した暗殺者疾風忍は、その実績を以て仕官を試みるが、あまりの強さを恐れられて、どこからも採用されない。止むを得ず、暗殺のスキルを生かして冒険者たちをサポートする暗殺屋(アサシンヤ)を始めるが、閑古鳥が鳴くばかり。そんな折、妙な依頼が舞い込むようになって……。


 異世界パーセクに転生した疾風忍は、暗殺者(アサシン)となり、数年の修行と冒険の末、単身で魔王城に潜入し、魔王ドバラを瞬殺した。
 忍が魔王ドバラを瞬殺した理由は、軍人として仕官するためである。魔王瞬殺の戦績を以って仕官試験を受ければ、合格できるだろうと高をくくったものの、悉く書類選考落ちとなる。国王を暗殺しかねないと恐れられたためだ。
 仕官をあきらめた忍は、暗殺のスキルを生かして冒険者たちをサポートする暗殺屋(アサシンヤ)を始めるが、閑古鳥が鳴くばかり。
 最初の依頼は、大金と引き換えに、ビギナーズ王国のカレン姫を殴って戦闘不能の状態に陥らせよというものだった。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

冒頭部抜粋

 よろず暗殺仕ります!暗殺屋(アサシンヤ)疾風忍
                          大滝七夕

 1、魔王ドバラ瞬殺。そして……

「俺の暗殺を企む者がこの城の中に侵入した可能性があるだと?」
「はい。どうか、魔王様。お気をつけ下され」
 魔王ドバラは、「ふん」と鼻を鳴らすと、執事役の背の高いダークエルフの男を面倒くさそうに追い払った。執事は、狼狽の色を浮かべながらも一礼して退出した。
 部屋に残っているのは魔王ドバラとその筋骨隆々とした紫色の裸体にしな垂れかかっている白いエルフの女だけである。
 松明に照らされた石造りの部屋。やたらと広い部屋の中央に豪華な飾り付けが施された天蓋付きのダブルベッドが一つあるのみ。そこに二人が横たわっていた。
「面白い。試してみればよかろう。果たして俺が簡単に暗殺されるようなやわな奴かどうかな――」
 魔王ドバラは、ほくそ笑んだ。顔色は紫。銀色の長髪をオールバックにしたとげとげしい顔つきの男である。種族はダークエルフ。ダークエルフというと、一般的にはひょろひょろした奴が多いが、魔王ドバラは如何にもタフな外見をしている。
「まあ。ドバラ様を暗殺できる奴なんているわけがありませんわ。もしも、そんな奴がいるとしたら、一躍、時の人となってしまいますわね」
 白いエルフの女が妖艶な眼差しを魔王ドバラに向けながら、寝巻きを肌蹴て、一糸まとわぬ上半身を露にした。人間の女と同じ、白く艶やかな肌である。耳がとがっていることと長い髪が白銀色に輝いている事以外は、人間の若い女と変わりがない。
「だろうな……。まあ、そんな奴がいればの話だが」
 魔王ドバラは、豊満な裸体を露にした白いエルフの女にむしゃぶりついた。
「あん……」

 魔王といえども情事の最中は、女に魂を奪われ、警戒心が緩む。
 玉座で待ち構えている魔王に勇者が仲間たちと共に正面から突っ込む。いわば、正攻法だけが魔王との戦い方ではない。情事の隙を狙うのも、あながち間違いとはいえない。
 何しろ、この世界は常在戦場――針の先ほどでも隙を見せたほうが敗れ去るのだ。敗れ去った者は文句を言う権利も時間もない。
 暗殺者――アサシンの疾風忍(はやてしのぶ)は、ずいぶん前から、魔王ドバラの寝室の天井に張り付き、魔王ドバラに隙が生ずる瞬間を辛抱強く待ち構えていた。
 そして、とうとう、その時がやってきたのだ!
 忍は行動を起こした。
 松明の明かりが突如として、フッ……と消えた。この部屋には窓がない。松明が消えればわずかな月明かりさえない完全な闇の世界となる。
「むっ……!」
 魔王ドバラは即座に異変に気づいた。白いエルフの女を脇に押しやって半身を起こした。
 魔王ドバラといえども、松明の明かりに慣れた目を、墨を垂らしたような闇に慣れさせるのには、数秒かかる。その数秒の隙が魔王ドバラにとって命取りとなったのだ。
 突如として――この部屋の中に太陽が現出したかのような強烈な光が沸き起こった!
 闇の世界からから目が焼けるほどの光の世界へ豹変する。
 魔王ドバラの視界はもはや完全に狂っていた。視界ばかりではない。火山が吹っ飛んだかと思うほどの強烈な爆発音。人間の数倍は鋭い聴覚までも奪われていたのだ。もはや、自分の周囲で何が起きているのか察知することもままならない有様。
 これぞ、アサシンスキルを極めた者だけが使える『スタングレネード玉』の威力である。
 この時、魔王ドバラは、何かを叫ばんとして、口を動かそうとしていた。
 一方、忍は、既に天井から身を躍らせていた。
 天井から離れた時、両手に合計十本の薄刃の手裏剣を握りしめていた。床に音も立てずに降りた時には、その手裏剣は消えている。
 もちろん、すべて、投げ打ったのだ。魔王ドバラに向けて!
 魔王ドバラは、全身の要所に突如として鋭い痛みが走るのを感じ取っていた。だが、それも一瞬のことだ。次の瞬間には、全身麻酔を打たれたかのように体が弛緩して、瞬きさえできなくなっていた。
 無論、忍が打った『ポイズン手裏剣』の毒にやられたからに他ならない。
 この世界に存在するありとあらゆる猛毒の類を調合して作り出した究極の猛毒。ポイズンなどと言う控えめな表記は本来ふさわしくない。その猛毒をこってりと染み込ませたポイズン手裏剣の毒は、この世界で最強の力を有する魔王ドバラのさえも瞬時にして廃人状態に陥らせるほどの威力があったのだ。
 そして、魔王ドバラに向かって飛び込む忍。
 いや――飛び込むという言葉も全くふさわしくない。あえて言えば、瞬間移動か。
 アサシンスキルを極めた者だけが駆使しうる超高速移動スキル『ステルスダッシュ』。
 魔王ドバラの目前に迫った忍が、右手に握りしめたナイフ――オリハルコンダガーを魔王ドバラの心臓に向けて突き出す!
 音速の刺突!
 忍が右手を振るっただけでその周囲にソニックブームとも言うべき衝撃波が走り、天蓋の飾り付けが吹っ飛び、白いエルフの女も床に叩きつけられる。
 これぞ、忍の最強の刺突技『ソニックストラッシュ』。
 分厚い鋼鉄の鎧を百枚重ねたよりも硬いと言われる魔王ドバラの胸。その胸にオリハルコンダガーの刃が完全に吸い込まれていた。さらに、刃の先からもソニックブームがとばしり、魔王ドバラの胸が波打つ。瞬時にして、心臓がズダズタに破壊され、刃の隙間からどす黒い血が噴水の如く流れる。
 硬直したまま、カッと目を見開いた魔王ドバラ。瞬時に、その目から光が失われ、開きかけた口からどす黒い血と共にようやく漏れた一言。
「ひ……」
 魔王ドバラが何を言わんとしたのかは、忍は知らない。
「ひぃぃぃぃ!」という情けない悲鳴だったのか。あるいは、「卑怯者ぉぉぉぉ!」と叫びたかったのか?
 もしも、後者だとすれば、忍にとっては褒め言葉に他ならない。
 いずれにしても、一連の動作は、魔王ドバラが「ひ……」という最期の言葉を発するほんの一瞬の間に行われたのである。

 ※

 これが、アサシンスキルを極めた疾風忍の魔王ドバラ瞬殺のあらましである。
 それから一月が過ぎていた。
 石造りの洋式のベランダに置かれたビーチチェアに横たわり、夏の夜空に輝く星を見上げながら、忍は、魔王を瞬殺した瞬間を思い起こしては、ほくそ笑んでいた。
 何物にも変えがたい達成感。
 普通の冒険者ならば、四人あるいは十人といったパーティーを組み、団結して魔王に挑むのが常識だろう。魔王の城に正門から堂々と乗り込んで、数々の罠を突破し、複数の中ボスたちを倒して最後に魔王の玉座に至る。
 正攻法で魔王を倒すのも、確かに達成感はあろう。
「俺はそれをたった一人で成し遂げた……!」
 魔王の城に運び込まれる物資の中に隠れて城内に忍び込み、真夜中になってから、誰にも気づかれずに行動を開始し、魔王ドバラの寝室に潜入。魔王ドバラが愛人の女と情事にふけている隙を狙って暗殺する。
 正攻法とは言えない。だが、たった一人で、魔王ドバラを倒した。それも、然したる激戦を繰り広げることなく――こちらは全くの無傷で――瞬殺したのだ。
 どのような手段を使おうとも、たった一人で成し遂げたことは評価されるのが当然だと、忍は思っていた。
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