スポンサードリンク

2016年02月27日

Kindle版 年収一千万の行政書士補助者

Kindle版 年収一千万の行政書士補助者



年収一千万の行政書士補助者 (行政書士の事件簿ノベルズ(WEB限定版))

 司法試験失敗者を食い物にする? あの暴力団と巨大行政書士事務所の罠 行政書士の事件簿ノベルズ(WEB限定版)第一弾

 司法試験に不合格になり、就職活動にも失敗し、資格スクールの事務員のバイトをしながら、未来の希望を抱けない日々を送っていた桜葉賢治(二八歳)の前に、六本木に大型事務所を構える行政書士法人昇竜事務所の代表行政書士竜野愛三が現れる。
 年収一千万円、ハイヤーによる送り迎え付き、家賃五十万の六本木の高級賃貸マンションに無料で住めるという破格の待遇を提示され、補助者として働かないかと勧誘される。賢治は、行政書士の資格を持っていなかったが、戸惑いながらも行政書士法人昇竜事務所で補助者として働き始める。
 仕事は、建設業許可申請と会社設立がメイン。ブラック企業さながらの激務だったが至れり尽くせりの待遇と充実した日々に満足する賢治。
 だが名門行政書士法人の背後には怪しい影が……。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

冒頭部抜粋

 年収一千万の行政書士補助者
                      大滝七夕

 1、司法試験三振者の転機

 新聞をテーブルに叩きつけた青年は、蛍光灯がチカチカする天井を見上げながら、深いため息をついた。
 平均的な背丈と程よく引き締まった体つきに、やや目の鋭い端正な顔立ち。清潔感のある切り揃えたショートカットの黒髪に、安物ながら紺のスーツを着ている姿は、どこからどう見ても平凡な会社員といった風情であるが、青年は正社員ではない。不安定な身分のフリーターだ。
 部屋を見渡すと、部屋の壁紙はくすんでおり、剥がれかかっている所が多数あった。床は、一応、掃除されているが、落ちないシミが多数散見し、十個ばかり並べられたテーブルは、縁が欠けて、傷が目立つし、椅子のシートも、所々、破れている。冷房は付いているが、耳障りな異音がするし、効き目が良いとは言えない。
 おまけに、色々な香水や汗をかき混ぜて散布したような酸っぱい臭いが立ち込めており、居心地の良い場所ではない。
 ここは神田神保町にある資格スクール『明日の法律家』の校舎の一室。スクールに通う生徒たちの休憩の場なのだ。今は、昼前だし、授業中なので、部屋にいるのは青年一人である。
 青年は壁にかかる時計を見やった。
 午前十時五分。んっ、待てよ。さっきも十時五分だった。青年はポケットの中から携帯を出した。スマホではない。ガラゲ―だ。今時の青年にしては珍しく、スマホは持っていないのだ。
「十時十分。畜生。また、あの時計が止まっているな。この前、電池を交換したばかりなのに、壊れているんじゃないのか?」
 青年はメモ帳を取り出すと、休憩室の時計が壊れていると走り書きした。あの卑屈で愚鈍な上司に時計を交換するように進言するのだ。
 すぐ近くの電気屋に走って買ってくればいいだけのことだが、あの上司のことだ。一度進言しただけでは、「忙しいから後回し」と言うだけだ。何週間にも渡って、生徒たちから同様の苦情が数十ばかりも寄せられて初めて重い腰を上げる。そして、青年に、
「君!さっさと、電気屋に行って時計を買ってきたまえ!何で報告しないんだ!」
 などと、千円札を数枚投げつけながら怒鳴り散らすに違いない。
「私は報告したじゃないですか!」
 と抗弁したところで、そんな話は聞いていないとはぐらかされる。そういう時のために、メモ書きを送りつけておくのだ。尤も、メモ書きもすぐにごみ箱に捨てられる。だから一枚だけでは足りない。何度も何度も送りつけておく必要がある。
 まだ、四十代になったばかりだというのに禿げかけた髪と豚のように肥えた肥満体をした丸顔の上司の顔を頭に思い浮かべて、青年は吐き気を催しそうになった。
 いずれ、自分も、あんな風になるのだろうか。
 彼は、国立京帝大学法学部法律学科を卒業しながら、就職せずに、この資格スクール『明日の法律家』で司法試験の勉強をしていた。バイト先もこの資格スクール『明日の法律家』で、今、己がやっているように事務員をしていたそうだ。
 そして、二十年近く経過したという。同時期に勉強を始めた人たちは、合格しあるいは撤退した。
 事務員として、あるいは先輩として「頑張れよ」と声を掛けた後輩たちが、次々に合格していく。その後輩が、今度は弁護士となって、あるいは、講師として、教壇に立ち、自分の合格体験を滔々と述べる。
「三年も勉強して合格できなければ、一生合格できませんよ」
 という後輩の言葉を彼はどんな思いで聞いていたのだろうか。
 彼の心も体も壊れたのだろう。心身の安定を保つ唯一の手綱が己のように将来の展望が断たれたバイトを見下し、怒鳴り散らすことだけ。
「俺もいずれそうなるのか……」
 青年は二度目のため息をついた。
 そう……。青年には、もはや、未来がなかった。壊れた時計のように青年の人生は止まっていた。再び動き出すことは……、ないだろう。
 青年の名は、桜葉賢治。年齢は二十八歳。この年にして職歴はない。国立京帝大学法学部法律学科という日本で五指に入る優秀な大学を卒業していながらだ。同期生たちには、官僚や一流の上場企業の正社員になった者も多い。だが、賢治は、大学四回生の時、就職活動をしなかった。私立東欧大学法科大学院に進学したのだ。
 二年間の勉強の後、司法試験受験資格を得た彼は、司法試験に挑戦した。
 三回挑戦した。そして、昨年、三度目の挑戦にして、撃沈し、未来が断たれた。
 法科大学院を出た者は、無限に司法試験を受けられるわけではない。法科大学院修了後、五年以内に三回のみしか受験が認められていない。三回とも不合格だった場合は受験資格を失ってしまうのだ。
 いわゆる『三振者』である。
 もちろん、三振者でも、再度法科大学院に入り直して修了するか、合格率三%の司法試験予備試験に合格すれば、再び受験資格を得られるが、賢治にはそれだけの経済力も時間も気力も残されていなかった。
 それから一年……。
 賢治は、かつて自分も通った資格スクール『明日の法律家』で事務員のバイトをしながら、暗澹たる日々を送っていた。
 就職活動はもちろんした。だが、「二十八歳にして職歴なし」という手枷は、容易に断ち切ることができなかった。

posted by ノベル時代社 at 20:47| Kindle版 年収一千万の行政書士補助者
スポンサードリンク