スポンサードリンク

2016年04月06日

Kindle版 被告人は勇者様 弁護士ビアンカ・グリシャムの事件簿 (リーガルファンタジーシリーズ)




被告人は勇者様 弁護士ビアンカ・グリシャムの事件簿 (リーガルファンタジーシリーズ)

 魔王を倒し世界を救った勇者が極刑を科しうる謀殺罪で起訴される!
 有力な証人は暗殺され陪審員は、全員元魔王軍のモンスター!
 新米美少女弁護士は無罪を勝ち取ることができるのか?


 十六歳で弁護士になったビアンカ・グリシャムは、初仕事で、魔王ザガリーを倒し、世界を救った勇者ラインハートの弁護を担当することになる。ラインハートが装備していた最強の防具『ホーリークリスタルアーマー』は、希少モンスター『クリスタルクラゲ』を大量虐殺し、その胴体で作られた物。その虐殺行為は法に反し、死刑に相当する罪だとして起訴されてしまったのだ。その訴追は、魔王軍復活を目論む秘密結社ダークリターンがラインハートを合法的に抹殺しようと目論んで起こしたもの。 ラインハートが死刑になれば、旧魔王軍が勢いづくことになる。何としても、無罪を勝ち取らなければならない。
 ビアンカは先輩弁護士のクリスト・ハーバートの助けを得ながら弁護活動を行うが、有利な証拠は集まらない。
世間に広く知られているラインハートの伝説によれば、ホーリークリスタルアーマーはクリスタルクラゲを加工して作ったことになっている。が、調査を進めるとラインハートは、ある洞窟でホーリークリスタルアーマーを手に入れて、甲冑師のトルキンに修理を依頼したに過ぎないと分かる。
 ビアンカらはトルキンから証言を得ようとするが彼は既に何者かによって暗殺されていた。
 裁判は陪審審理により行うことになるが、陪審員の全員が旧魔王軍のモンスターで占められてしまうという有様。
 果たして、ビアンカは、ラインハートの無罪を勝ち取ることができるのか?

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

(冒頭部抜粋)

 被告人は勇者様 弁護士ビアンカ・グリシャムの事件簿

                         大滝七夕

 序 天才甲冑師トルキン暗殺事件

 パンデクテン万国共通憲法の第十四条にはこうある。
 『知性を有するすべての種族は、法の下に平等であって、種族、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。』
 続けて二項には、『パンデクテン万国共通言語による意思疎通が可能な種族はこれを知性を有する種族とする。』
 つまり、人間のみならず、魔族も、もちろん、人間と魔族の混血児も、パンデクテン万国共通言語によって意思疎通ができれば、誰もが平等な立場に立てる世の中になったということなのだ。
 勇者ラインハートが魔王ザガリーを倒し、ザガリー大戦と呼ばれる人族連合国と魔族連合国の世界大戦が終結したことに伴い、この憲法が全世界で公布され、施行されたのだ。

 トルキンは、庭先の石のテーブルの前に肘掛け椅子を出して春の夜の穏やかなひと時を堪能していた。
「ラインハートに協力した甲斐があったということかな……」
 新聞をクリスタル製のランプが灯る石のテーブルの上に置き、カヌチ酒の一升瓶をそのまま口に運んで一気に飲み干したトルキンは、そう独りごちた。
 カヌチ酒はアルコール度が高く、人間にとっては、強い酒であるが、人間と魔族の混血児であるトルキンにしてみれば甘酒と同然だった。
 ふと夜空を見上げれば、空には満月が浮かび、いくつもの星座がはっきりとした輝きを放っている。
 自分のこれまでの人生は差別と偏見に悩まされ続けた日々だったなとトルキンは思い返した。
 甲冑師を志して、人間の国の大学で最も偏差値の高いレイシオ国立デシデンダイ大学の工学部に入学できたものの、学生生活は楽しいものではなかった。
 同期生は全員が純然たる人間で、人間と魔族の混血児は己一人だけだった。それだけに、誰からも奇異の目で見られた。誰かに話しかけても無視されるし、攻撃するつもりかと警戒されて、盾で押し返され、剣を突き付けられたこともあった。教官でさえ、なぜおまえがここにいるのだと睨みつけてくるほどだった。
 そんなわけで、トルキンはいつも孤独だった。昼食はトイレ飯だったし、講義を受ける時も教室の隅の机に一人ぼっちで座っていた。教室がどれほど込み合っていても、トルキンの周囲だけはドーナツ状の空間ができていた。他の生徒と深く関わるサークルやゼミにはもちろん入らなかった。
 唯一、気にかけてくれたのは、クリスタル製の防具制作を専門とするエイリアス教授だった。
 人間の生徒たちが堅いクリスタルの加工に手を焼いている中、トルキンだけは魔族由来の魔力を駆使してものの数分で課題を達成して見せると、エイリアス教授が己のことを絶賛してくれたのだ。それがきっかけで、トルキンはエイリアス教授に個人的に師事し、クリスタル製の防具制作を専門とする甲冑師を志すようになった。
 だが、卒業してから就職する先がなかった。大手の防具工場はすべからく人間の職人のみを求めており、人間と魔族の混血児であるトルキンは、学部での成績がトップクラスでも、門前払いとなってしまったのだ。
「お前の才能は必ず役に立つ。腐ってはならんぞ」
 エイリアス教授は、そう励ましてくれて、大学に残って研究者の道に進まないかと勧めてくれたが、トルキンは断った。トイレ飯には、もううんざりしていたからだ。
「ならば、クリスタル山脈の只中にあるカヌチ村に行くとよい。クリスタル山脈は、クリスタル製の防具の原料を産出する山だし、カヌチ村には、その手の職人が二、三人ほどいて、個人工房を構えている。お前もそこで個人工房を構えるとよい」
 エイリアス教授の勧めに従い、トルキンはカヌチ村に移住して、個人工房を構えた。カヌチ村は、もちろん人間の村であるが、穏やかな性格の人が多く、トルキンのこともすぐに受け入れてくれた。

 勇者ラインハートがエイリアス教授の紹介状を携えて、カヌチ村を訪ねてきたのは、トルキンがカヌチ村に移住してから五年後のことだった。
 勇者ラインハートは、魔王ザガリーとの戦いに備えて、強力な防具を必要としていた。
 『ホーリークリスタルアーマー』と言う鎧である。
 もちろん、並の甲冑師では制作は不可能。エイリアス教授にも無理で、唯一、制作できるとすればトルキンのみ。ぜひとも勇者ラインハートに協力してほしいとのことだった。
 紹介状と共に、エイリアス教授自筆の設計図も同封されていた。それによるとホーリークリスタルアーマーを制作するためには、少なくとも百匹のクリスタルクラゲが必要だということ。クリスタルクラゲは、クリスタル山脈の奥地ブリザード峡谷にしか生存していないということだった。
 そして、クリスタルクラゲは、絶滅危惧種に指定されており、デシデンダイ国際取引条約により捕獲も取引も禁止されているが、魔王ザガリーを倒すためにはホーリークリスタルアーマーが必要不可欠と言うことだから、ぜひとも、協力してやってほしいと結ばれていた。
 エイリアス教授直々の指名ともなれば、トルキンは断ろうはずがなかった。
 それから三か月後には、勇者ラインハートは、ホーリークリスタルアーマーを装備して、意気揚々とカヌチ村を去った。
 魔王ザガリーが勇者ラインハートの手によって葬られたのはそれからわずか半年後のことだった。

 勇者ラインハートが魔王ザガリーを倒したことで、この世界――パンデクテンは大きく変わった。
 人族連合国と魔族連合国の間で、デシデンダイ講和条約が結ばれ、戦争状態が終結した。
 レイシオ国立デシデンダイ大学法学部教授で憲法学者のチャールズ・グリシャムが中心となって、パンデクテン万国共通憲法が起草され、公布、施行された。人間も魔族も混血児も――誰もが法の下に平等となったのだ。
 新聞――デシデンダイタイムズでは、憲法施行から七年経った今でも、憲法特集として、毎日一条ずつ、その条文の意味と判例を一般の人にも分かるように解説していた。
 すべての種族に法の下に平等だという概念を植え付けるには、たった一度のニュースを流しただけでは不十分だったからだ。
「すべての種族は、法の下に平等か――」
 この憲法制定後七年経った今から、己が大学に通うとしたら、あの頃の様な不当な差別を受けることはないのだろうか?トイレ飯を食うような生活ではなく、人々の間に交じって、和気藹々とした生活を送れるのだろうか?
「でも……人の意識は法律が制定されたくらいで変わるわけがないよな……」
 トルキンはデシデンダイタイムズを折りたたむと、テーブルの上に置かれた一枚の封筒に目を向けた。
 エイリアス教授からの手紙だった。エイリアス教授は近々、定年退官することになっており、後任の教授としてトルキンを招きたい旨が記されていたのだ。
 どう返事すべきか、トルキンは迷っていた。
 何しろ、トルキンは、カヌチ村での生活が気に入っていた。クリスタル製アーマーを年に一つ作れば、それだけで一年間暮らすことができるほどの大金が入り込む。トルキンの手に掛かれば、平凡なクリスタル製アーマーを一つ制作するのに七日も要しない。鎧を一つ作れば一年の大半は、安寧に暮らすことができるのだ。
 ザガリー大戦が終結したことにより、クリスタル製アーマーの戦闘における需要はほとんどなくなるはずである。
 だが、一部の金持ちたちは、自分たちは装備できずとも部屋のインテリアとしてクリスタル製アーマーを欲しているから、彼らを相手にして商売をすれば、これからの時代でも収入は見込めた。
 今の生活を捨ててまで、教授の仕事を引き受ける必要もないのだ。
「さて……どうしたものか……」
 そうつぶやいて、肘掛椅子に深く座り直した時である。暗い森の中で何者かが動いたように思った。
 トルキンの住居兼工房はカヌチ村の中心部から離れた小高い丘の上にあった。周辺には住居はなく、村の中心部を見下ろすことのできる原っぱと後背に鬱蒼とした森が迫っている。森にはウサギやリスといった小動物はいるが、大型の動物はいない。
 村人の誰かがトルキンの家に来るときも、見通しの良い原っぱを登ってくるのが常で、森の中から姿を現すことはない。
 トルキンは石のテーブルの上に置いたクリスタル製のランプを手にすると森の茂みの方に明かりを向けた。
「誰かいるのか?」
 と誰何したが答えはなかった。
 その時、突然、黒い気を含む風がトルキンの頬を撫でた。
 何者かが後ろに回ったと感じて、背後を振り返ったが、何者の姿も見出すことができなかった。
「一体、なんだ……」
 トルキンが首を傾げた時、不意に背後から声がかかった。
「お前がホーリークリスタルアーマーの件に関わったトルキンか……?」
「何者だ……!」
「トルキンで間違いないようだな……?」
 姿は見えなかった。だが間違いなく、何者か――黒っぽい着物をまとった者が己の周囲を目に止まらぬ速さで動いているのだと理解できた。
「何の用だ……!」
「お命頂戴いたす……」
「な、何だと……!」
 その瞬間、トルキンの目前で緑色の霧が沸き立った。霧は瞬時にして、トルキンの体に吸い込まれた。
 その刹那――。
 意識を失ったトルキンは仰向けに倒れて、二度と起き上がらなくなった。

 1、十六歳の新米弁護士ビアンカ・グリシャム

 小悪魔ちゃん喫茶『デビルガール』の女子用お手洗いには全身を映し出せる鏡があった。
 ビアンカ・グリシャムは、その鏡の前に立って、己の姿をあらゆる角度から確認していた。
 身長は百五十五。黒く艶のある長い髪はツインテールに束ねている。やや大きめのネコ目が印象的な整った顔だち。目の奥からは強い光を放っているようで意志の強さを感じさせる。白いシャツに濃紺のスーツとミニスカート。足からはすらりとした生足が覗いており、濃紺のハイソックスと黒皮のローファーを履いていた。
 スーツの左衿には天秤を象った純金のバッチが輝いていた。
 パンデクテンのあらゆる国で活動できる『万国共通弁護士資格』を有することを示すバッチだった。
 ビアンカは胸に手をあてがい、その膨らみの貧弱さに思わず顔をしかめた。せいぜい、手ですっぽり覆えるほどの膨らみしかないのだ。
「まあ、気にしたってしょうがないか……。それより、私、弁護士に見えるかしら……。うーん。ツインテールだと子供っぽく見えるかな……。髪型は変えた方がいいかしら……」
 何しろ、ビアンカはまだ十六歳で、数か月前に司法試験に合格したばかりの新米弁護士なのだ。
 平均的な弁護士と比べて若すぎ……、いや、幼すぎるというべきだろう。
 弁護士になるには大学を卒業した後、ロースクールに進学し、三年間の勉強の後、司法試験に合格しなければならない。大学に入るにしたって、人間の学生ならば、一般的には、十八歳前後だし、それから四年間の大学生活の後、ロースクールに進学することになるのだから、早くても、弁護士になれるのは二十代の半ばである。
 だが、才能のある学生は、飛び級制度と大学入学資格検定試験を利用することで、十代で大学もロースクールも卒業することができたし、司法試験を受けて弁護士になることもできた。
 ビアンカもそうした制度をフルに活用することで、十六歳にして弁護士になったのである。
 これは、特段珍しいことではない。
 パンデクテン万国共通憲法が施行されて以来、毎年、数人は最短で弁護士になっているし、ずば抜けて高い知性を有する種族だと、六歳で弁護士になっている例もあった。人間の最年少記録は、憲法施行の年にクリスト・ハーバートという少年によって打ち立てられた。彼は十一歳で弁護士になっており、この記録は今なお破られていない。
「まあ、初日は、これでいいか。よし、頑張るぞ!」
 襟を正したビアンカは、ガッツポーズをすると意気揚々と女子用お手洗いから出た。
スポンサードリンク