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2016年05月25日

Kindle版 JKリフレ殺人事件 特別中編 一億稼ぐ行政書士の事件簿2




JKリフレ殺人事件 特別中編  一億稼ぐ行政書士の事件簿2 (行政書士の事件簿ノベルズ(WEB限定版))

 司法はここまで凋落したのか! 法科大学院教授がJKリフレを運営?行政書士の事件簿ノベルズ(WEB限定版)第三弾

 行政書士の倉部友幸は三十歳になったばかりでありながら、都心に近い駅前の一等地に事務所を構え、二人のパートナー行政書士と十人の補助職員を使う行政書士法人倉部事務所の所長である。飲食店営業、喫茶店営業、風俗営業等の営業許認可と会社設立という事業者向けの法務サービスを主として提供している。
 友幸のもとに、とあるマンション管理組合の理事長白間由香が相談に訪れる。住居に限定したごく普通のマンションの一室で、『JKリフレ――女子高生がリフレクソロジーという簡易マッサージをしてくれるサービス』を営業している者がおり、彼らを追い出すために手を貸してほしいという。JKリフレは風俗営業法や飲食店営業の規制を受けないため、住居専用のマンションでも営業できてしまうのだ。
 友幸は、彼らの部屋の前に防犯カメラを設置し、その映像記録をもとに警察に相談し、あるいは、裁判所へ明け渡しを求める訴えを提起すべしと提案する。
 友幸の立ち合いの下、早速、防犯カメラを稼働させると、その部屋で賃借人――JKリフレの店長能口成太(31歳)が殺害されるという事件が起きてしまう。防犯カメラの映像記録から、17歳の現役女子高校生城内優美が被疑者として浮上するが……。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

(冒頭部抜粋)

 JKリフレ殺人事件 一億稼ぐ行政書士の事件簿2 特別中編

                         大滝七夕

 1、JKビジネスと風俗営業法

 行政書士法第一条の二にはこうある。
 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
 簡単に言えば、クライアントが『事業を始める』際に必要な営業許認可申請や会社の設立のサポートをするのが仕事である。
 飲食店営業、喫茶店営業、風俗営業等の営業許認可と会社設立を専門としている行政書士法人倉部事務所も『事業を始めたい』というクライアントをサポートするのが仕事で、『事業を止めさせてほしい』と言う依頼を受けることは普通はない。
 同事務所の所長である倉部友幸がそのクライアントと面談した時、暫し、絶句した。
 だが、話を聞いているうちに、「なるほど、厄介な問題だ」と認識し、その連中の営業を『止めさせるために』力を貸さなければならないと思った。
「いわゆる、JKビジネスですね?」
「そうです。ごく普通のマンションの一室で、ですよ。女子高生の格好をした女の子たちが男性客の接待をしているようなんですよ」
「マンション管理組合の理事長である白間さんが、その『やすらぎハイツ浦安』103号室を訪れても、部屋の中を見せてもらえないわけですね?」
「色々な人が出入りしているようなので、一体、何をやっているのですかと聞いても、『友達と遊んでいるだけだ』の一言ではぐらかされますし、『女の子たちがいっぱいいるようですが』と聞くと、『俺はモテるんだ。モテるのが悪いのか』と切り返される感じで、とんと話にならないんですよ」
「103号室は所有者が使っているわけではなく賃借人が使っている?」
「はい。所有者は猪島盛時と言う人ですが、この部屋に住んだことは一度もないようです。能口成太と言う若いお兄さんが借りて住んでいるんです」
「能口成太というお兄さんに話をしてもそのようにはぐらかされてしまうと?」
「そうです」
「所有者の方とは話はしていないのですか?」
「一度も会ったことがありませんし、どこに居るのかも分からないんですよ」
「なるほど。そういうことなら、まずは所有者の猪島盛時さんを探して、賃借人の能口成太があなたの部屋でJKビジネスをやっているようなので止めるように通告してくれと、言うべきですね」
「ええ。そうなんですけどね。私の勘では、二人はグルだと思うんですよ。猪島盛時は能口成太がJKビジネスをやっていることを知っているというか……、JKビジネスの本当の運営者は猪島盛時で、能口成太は雇われ店長なんじゃないかと思うんです。もしかしたら暴力団関係者とかじゃないかと疑っているんですよ」
「なるほど……。それでは猪島盛時と言う人物のことをよく調べる必要がありそうですね。一筋縄でいかない人物であれば、ただ、内容証明郵便で通告しただけではJKビジネスを止めないでしょうね」
 友幸は、法律用箋の上に万年筆を置くと、眉間に皺を寄せ、額に手を当てて考え込んだ。

 四月の終わり、ゴールデンウィーク前だった。
 昼下がりの事務所は気だるい感じはまるでなかった。
 友幸の他、二人いるパートナー行政書士――七三に分けた髪に白髪が混じる六十代の甘利虎信と、ややふっくらとした体つきで柔和な顔つきの三十代半ばの秋月浩二――は、先ほどから一時間ばかりも電話を耳に張り付けたまま、クライアントと何事かを話し続けていたし、十人ばかりの補助職員たちは、パソコンのキーボードを乱打し、紙吹雪の如く吐き出されるFAX用紙やコピー用紙の束と格闘している。
 入り口のドアがパチンと小気味よい音を立てて閉まり、今しがた、三人の補助職員が役所に書類を提出するために出かけたのだと分かった。
 誰もがきびきびと働いている中、自分の手だけが止まっていることに気付き、友幸はハッとして顔を上げた。
 面談用のテーブルの傍らにスリープ状態のノートパソコンが置かれている。液晶画面が反射して自らの顔が浮かび上がっていた。
 ショートカットの髪型に鷲を思わせる目つきをした精悍な顔立ちは自分で見ても悪くないと思う。手入れの行き届いた質の良い黒スーツを身に付け、左衿には、秋桜の十枚の花弁の中央部に篆書体の行の文字が配置された行政書士のバッチが金色の輝きを放っている。
 三十代になったばかりで行政書士としては若すぎるが、如何にもやり手と言う外観を呈していると思う。
 だが、行政書士は見た目で勝負する職業ではない。クライアントに的確な助言ができて初めて、信頼を勝ち取ることができる。
 目の前にいる白間由香という五十代の女性は、買い物のついでに立ち寄った主婦と言った雰囲気。『やすらぎハイツ浦安』101号室に一人で住んでいて、会社で一般事務の仕事をしているごく普通の人である。
 こうしたごく普通の人が行政書士のクライアントになる機会は人生の中でもそう多くはない。
 せいぜい、車を買った際の車庫証明の手続きを行政書士に依頼したり、相続の際に各種の相続手続きや遺言書作成に関して行政書士に助言を求めたり、手続きの代行を依頼することがあるかもしれないという程度だ。
 ましてや、飲食店営業、喫茶店営業、風俗営業等の営業許認可と会社設立という事業者向けの法務サービスを主として提供している行政書士法人倉部事務所は、こうしたごく普通の人をクライアントとして迎えることは、まず、ないと言っても過言ではない。

 今回の件に関して、報酬はほとんど期待できない。
 風俗営業を始めるために必要な膨大な申請書類を作成して、クライアントにそれ相応の報酬を求められるわけでもないし、事業開始後も法務顧問として継続的に関係を持ち、定期的な報酬が見込める案件でもない。
 たった今、相談を終えてしまえば、白間由香は、二度と行政書士法人倉部事務所の敷居を跨ぐことはないだろう。
 だからと言って、相談をなおざりにするわけにはいかない。いや、刹那的なクライアントだからこそ、その一瞬に得た印象は大きなものになる。行政書士法人倉部事務所の評判はもちろんのことだが、行政書士と言う職業に対する印象ともなる。
 白間由香は、『やすらぎハイツ浦安』という三階建ての小さなマンションのマンション管理組合の理事長をしているという。当然、マンションの住民とはよく話をしているだろうし、今回の案件に関して、行政書士法人倉部事務所に相談してみる旨を住民たちに告げて来たであろう。
 彼女が、今ここで得た印象は、その住民たちに拡散されるわけで、よくない印象を持ってしまえば、行政書士法人倉部事務所、しいては、行政書士と言う職業自体の悪い評判となって住民全体に伝染病の如く広がってしまう。『やすらぎハイツ浦安』という小さなコミュニティばかりでなく、やがては、周辺の地域にも広がってゆくのだ。
 行政書士として相談を受けるということは、自分の事務所ばかりでなく、行政書士と言う職業の評判も背負っているということを自覚しなければならない。

「そのJKビジネスの店の名前は何と言うんですか?」
 友幸が気を取り直して、訊ねると白間由香は手に持ったメモ用紙を見せてきた。
「ええっとですね。ホームページで見たんですよ。JKリフレ『ドキドキ女子寮』ですね」
 メモ用紙には店の名前の他、ドメインも記されていた。
「ちょっとパソコンで確認してよいですか?」
「ええ。どうぞ」
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