スポンサードリンク

2016年05月27日

Kindle版 遺産はアンティークコインにぶち込め? 即独新米弁護士の事件簿1





遺産はアンティークコインにぶち込め? 即独新米弁護士の事件簿1 (弁護士の事件簿ノベルズ(web限定版))


 金なし、コネなし、実務経験なし。だけど熱意だけは誰にも負けない!
 即独新米弁護士が、カルト教団の顧問を務めるベテラン弁護士の陰謀を打ち砕く!

「生き残りたければ、倫理だの正義だのと言う青臭い考えを捨てることだ。儲かっている弁護士ほど、裏ではあくどい事をしているもんなんだよ。痴呆の老人に偽の遺言書を書かせて遺産をそっくり頂くことくらいどうってことないだろう」

 カルト教団の顧問を務める悪徳弁護士の口から出たその言葉に、正義感あふれる二八歳の新米弁護士三文純一は愕然とした。
「たとえ食えなくても、遺言書を偽造してお年寄りの遺産を搾取するようなことはしない!」と決心するものの、開業後一年経っても仕事は一つも舞い込まず、家賃の支払いさえ危ぶまれる状況に陥る。
 そんな折、大学時代の彼女――大浪里奈が駅前の一等地で、介護サービス事業、遺品整理業の営業許認可と会社設立を専門とする『大浪行政書士・社会保険労務士事務所』を経営し、業績を着々と伸ばしていることを知り、仕事を回してほしいと懇願する。
「弁護士ではなく、行政書士の補助者として働くこと」という屈辱的な条件を突き付けられるが、背に腹はかえられず、里奈の下で働き始める。
 やがて、里奈が開業をサポートした老人ホームにカルト教団と悪徳弁護士らの魔の手が伸びていることを知った純一は、里奈たちの助けを得ながら、お年寄りたちを守り、被害者を救済すべく、立ち上がる。


著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


(冒頭部抜粋)

 遺産はアンティークコインにぶち込め? 即独新米弁護士の事件簿1

                               大滝七夕

 1、落ちこぼれ弁護士とやり手行政書士

「お年寄りを訪問して、うちの宗教団体――金天教に遺贈する旨の遺言書を書いて頂くだけの簡単なお仕事です」
「はあ……?」
「実際に相続が発生し、金天教への遺贈が行われた場合は、遺贈された財産のうち、十%を三文先生の成功報酬としてお支払いすることになります」
「遺言執行者としての報酬と言うことですか?」
「いえいえ。違いますよ。遺言執行者としての報酬は、遺言者から頂くものでしょ。それとは別に、金天教からも報酬をお支払いするということですよ。一千万円の遺産が寄付されれば、報酬は百万円ですよ。この額がほとんど何もしなくても先生の懐に入るわけですよ。悪くないと思いませんか?」
「そりゃ……美味しい話ですね……」
 安物の黒スーツをまとい、左衿には金ぴかの弁護士バッチを付けた青年が生唾を飲み込んだ。
 この青年の名前は、三文純一と言う。二十八歳の独身だ。
 背丈は百七十前後であろう。低くもなく高くもない。細面の顔立ちに清潔感のある黒髪のショートカット。無駄な贅肉が付いていない体格をしており、目つきは、研ぎ澄まされたナイフを思わせるように鋭い。
 見るからに大手法律事務所のやり手の若手弁護士と言う雰囲気であるが、純一は、見た目とは裏腹に落ちこぼれ弁護士だった。
 いや……落ちこぼれと一言で片付けられないほど惨めな境遇だった。
 私立中庸大学法学部法律学科という中堅の大学を卒業すると同時に私立中庸大学法科大学院に入学し、卒業後は、一年の浪人生活の末ようやく、司法試験に合格した。
 司法修習を終えて、これで俺の輝かしい未来が開けたぁぁぁ!と意気軒昂としたのも、つかの間。
 各地の法律事務所を訪問し、就職活動をしたものの、どこからも採用されなかったのだ。
 出身が中堅の大学と言うこともあり、大手の法律事務所に入れるとは思っていなかった。だから、謙虚に中小規模の法律事務所に絞って就職活動をしたのだが、小さな事務所だと、そもそも、新人を採用していないという所がほとんどだったし、採用していても、一人の枠に十人以上が応募しているというありさま。おまけに、新人の採用のはずなのに、即戦力を求めており、法律関係の仕事に関わった経験を問われることもあった。もちろん、大学を出てからすぐに法科大学院に入学した純一に職歴などない。
 弁護士としてキャリアを積む以前に、入る法律事務所を見つけることができずに、いきなりつまずいてしまったのだ。
 やむを得ず、純一は、個人で開業することにした。
 働いたことは一度もないのだから、もちろん、資金などない。銀行だって、新人の弁護士に資金を貸してくれるはずもなく、自宅アパートを事務所として開業した。形だけならば、弁護士を開業するのに特別な物は必要ない。机と椅子と電話とパソコン。それに資格があれば、弁護士はいつでもどこでも開業できる。オフィスを借りる必要はなく、自宅アパートで開業したってよいのだ。
 だが……。
 電話帳に名前が載ったものの電話は全く鳴らなかった。ブログやSNSにも書き込みをしてアピールしたが、そもそも、効果的な宣伝方法を知らない純一が、漫然と記事を書いているだけでは、問い合わせにつながるわけもなかった。
 開業してからの一年間でやった仕事と言えば、同じアパートに住む住民同士が生活の騒音をきっかけでもめ事になったのを仲裁したことだけである。報酬は、
「兄ちゃん。ありがとな」
 と、上の階のヤクザっぽい外見のおっさんが投げてよこした缶コーヒー一本。
 そもそも、仕事と言えるかどうかも微妙な事案だった。
 仕事がないので収入もゼロ。貯金が目減りし続けるばかりで、来月はアパートの家賃さえも支払えるかどうか微妙――と言うところまで純一は、追い詰められていた。
 そんな時に、一本の電話がかかってきたのだ。
 それが、金天教という宗教団体からの仕事の勧誘だった。とにかく、どんな仕事でも引き受ける気になっていた純一は細かいことは考えずに、船橋市の郊外にある金天教の本部なる場所へ赴いた。梨畑に囲まれた閑散とした僻地で、オフィスや宗教施設というよりも、普通の団地の一室という感じの場所だった。
 案内されたオフィスの会議室で、純一は、山原龍太と名乗った巨漢と面談したのだ。
 山原龍太は、決して若くないが、プロレスラーかと思うほどの筋骨隆々とした巨漢だった。わずかに白髪が混じる髪は角刈りにしており、目つきには只ならぬすごみがあった。黒い高級スーツを身に付けており、左衿に弁護士バッチが付いていなければ、ヤクザと見分けが付かないところだった。
 山原龍太は、純一と顔を合わせるなり、金天教の顧問弁護士だと名乗った。名刺は、もらっていないが、弁護士バッチは本物だし、偽弁護士と言うことはないだろうと思った。
 山原龍太から紹介された仕事は、相続税が課されそうなほど金を持っている老人を訪問して、金天教への遺贈をお願いしろというものだった。もちろん、遺贈して頂けるようであれば、弁護士として遺言書の作成をサポートする。
「問題は金天教に遺贈してくれる年配の方をどうやって見つけるかということですよね?」
 と、純一が緊張した面持ちで訊ねると山原龍太は、口角を上げて飛びっきり愛想のよい顔を見せた。
「遺贈してくれる方を探す方法は三文先生にお任せしますよ。三文先生の顧問先を訪問するのでもよいですし、何かのリストを見つけて片っ端から訪問してもいいですし、相続税対策セミナーを開いても構いませんよ」
「しかし……、恥ずかしい話ですが、私は、顧問先などまだ一つもないし、訪問営業やセミナーの講師をやったことはないですし……」
 純一がしり込みすると山原龍太は笑みを崩さずにうなずいた。
「三文先生が開業したての若手弁護士であることはもちろん存じていますよ。これからぜひ頑張っていただきたいと思います。私も、先輩として、三文先生の活躍に期待しています。しかし、今の時代は、若手弁護士にとっては厳しい時代ですからねえ。司法試験合格者が増えている一方で、法律事務所の求人は横ばい状態でしょ。新人弁護士の中には、就職先がなくて、自宅で開業する人もいる」
「ええ。私がまさにそうですよ……」
「そもそも、司法試験の合格者を増やすということが間違いだったんですなあ。金のかかる法科大学院制度といい、素人を司法に関わらせる裁判員制度といい、司法制度改革なんて改悪ですよ。三文先生もご存知だと思いますが、日本の法律実務家は、弁護士だけではありません。弁理士、税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士などの隣接法律専門職もいるわけです。彼らの存在を無視して無理やり弁護士の数だけ増やそうとしても、飽和してしまうのは当然ですなあ。三文先生もそうお思いでしょう?」
「ええ。全くおっしゃる通りだと思います」
「でも、文句を言っていても仕方ありません。昔の方がよいにしても、今更、制度を元に戻すことは難しいでしょう。我々は与えられた条件の中で生きてゆくしかないわけです。弁護士もたくましく生きなければなりませんよ。従来の弁護士業務だけでなく、新しい業務を開拓していく必要があります。相続税を心配している年配の方に遺贈を求めるというのも新しい業務ですよ。相続税法の改正で、相続税の基礎控除額が縮減したのは、まさにビジネスチャンスと言えますよ」
「新しい業務……ビジネスチャンスですか……?」
 山原龍太は、急に真顔になると凄味のある眼差しを向けてきた。純一は、一瞬、背筋が凍るような思いがした。
「これからの話はオフレコだからね。ボイスレコーダーを隠し持っていないよね?」
「ええ。ボイスレコーダーは持っていません」
「遺贈を求めるにしてもね。健康な老人に頭を下げて寄付してくださいってお願いして回るのは、効率が悪いよ。それに、訪問営業するのは弁護士の仕事じゃないよね」
「確かに訪問営業は弁護士の仕事じゃないですね……」
「狙うなら、寝たっきりの老人とか、認知症で自分の資産がどれだけあるのか分からなくなっているような老人だよ。お金のかかる老人ホームに入っている老人だと意外に資産に余裕があるからねえ。そういう人に遺言書を書かせるんだよ」
「はあ……?」
スポンサードリンク