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2016年06月22日

Kindle版 第二のパナマ文書 十億稼ぐヤメ検闇弁護士の事件簿1




第二のパナマ文書 十億稼ぐヤメ検闇弁護士の事件簿1 (弁護士の事件簿ノベルズ(web限定版))


 法的手段で対処できない案件を非合法な手段で解決。暗殺者を雇い、相手を葬ることも辞さない最凶のヤメ検闇弁護士の活躍を描くシリーズの第一弾。

 元検事の黒星京助は35歳の若さでありながら、東京秋葉原の十階建て新築ビルのオーナーである。
 弁護士登録はしておらず、表向きは隠居――セミリタイア同然の生活をしているが、実は、法的手段で解決することができない案件を非合法な手段で解決することを専門とし、時としては、拳銃とナイフを使う暗殺者を雇い、相手を葬ることも辞さない闇弁護士だ。
 京助のもとに、パナマ文書に絡む特殊詐欺の案件が持ち込まれる。被害額は三億円。詐欺グループを探し出し、金を取り戻してほしいという案件だ。
 早速、調査を開始すると、詐欺グループの背後に、大量殺人やテロ行為を辞さない過激な秘密結社が存在することが明らかに。京助の身にも暗殺者の手が忍び寄る――。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


(冒頭部抜粋)

 第二のパナマ文書  十億稼ぐヤメ検闇弁護士の事件簿1

                            大滝七夕

 検事黒星京助は、被告人鳴海幸治をキッと見据え、手をしっかり伸ばして人差し指を彼に突き付けた。
「この男は……」
 上司からいつも、そうするように言われていた。
「必ず、被告人を指さすんだぞ。絶対の確信を以て被告人を起訴したということを法廷の場で示すには、被告人を指さすのが一番だ」
 と。だから、京助はそうした。言われなくても、そうしていただろう。
 なぜなら、厳しい競争を勝ち抜いて、検事の職を手にしたのは、この男を地獄に突き落とすためだったのだから。そして、とうとう、その時がやってきたのだ。
「この男は……。鳴海幸治は、十四人もの善良な市民の命を奪ったのです。十四人です。二十代で、まだまだ未来のある青年もいました。幼い子供がいる三十代の父親もいました。子供を腹に宿した若い女性もいました。全員が、この男の凶弾によって、未来を断たれたのです。自らの欲望を満たし、自らの犯罪を隠ぺいするために……。十四人もの命を……!極悪非道……。いいえ、鳴海幸治の残虐な行いを言葉で表すことはできません」
 京助が、そう断言すると、
「嘘だ!濡れ衣だあ!」
 弁護人の隣に座る被告人鳴海幸治――五十代ながら背がありがっしりした体つきの男が立ち上がって喚き散らした。慌てて若い男の弁護人が立ち上がり、鳴海の肩を押さえつけようと試みる。
「黒星京助!貴様!よくも俺のことを罠に嵌めてくれたな!」
 喚けばよい。
 喚けば喚くほど、この男は自ら陥穽に嵌ることになるのだ。
 この裁判は、裁判員裁判だ。綿密な証拠よりも、被告人自身が一般人である裁判員に与える印象が勝敗を決すると言っても過言ではない。
 鳴海が、一歩踏み出そうとしたところで、刑務官に押さえつけられた。
 法壇に並ぶ裁判員の間に侮蔑の眼差しが浮かんだ。
「俺は何もしてない!無罪だ!俺は嵌められたんだ!」
 被告人がこのような事を喚けば、検事である自分がろくに証拠を精査せずに、被告人を起訴したような印象を与えてしまうかもしれない。
 他の事件だったらそうだろう。だが、今回の事件は、ありとあらゆる証拠が、この男が稀に見る大量殺戮事件を起こしたことを示していた。
 居並ぶ裁判員の誰もが、この男が事件を起こしたことを知っている。
 一般に裁判員は、事件に関する先入観を全く持っていない者を選ぶのが望ましいとされている。
 だが、この事件に関しては、先入観を持っていない者を選ぶことなど不可能だった。
 あの事件はあまりに鮮烈なイメージを世間に残していた。
 テレビが実況中継する中で、銃声が轟き、警察の特殊部隊が突入した時には、すべてが終わっていたのだ。

 市川市塩浜の海沿いにある鳴海倉庫運輸の事務所に銃で武装した男が立て籠ったという通報が千葉県警に寄せられたのは、約一年半前のクリスマスイブの夜のことであった。
 千葉県警は直ちに、包囲網を敷くと同時に、突入に備えて特殊部隊を呼び寄せた。
 鳴海倉庫運輸は、大型建材の輸送や販売を請け負う会社で、従業員の数は社長を含めて十五人というこじんまりとした中小企業である。敷地内には大型トラックと建材を保管する倉庫がある。事務所は倉庫の隣に建てられた二階建てのプレハブの建物。その二階に、十四人の従業員が人質に取られているという。
 しかも、立て籠っている男が、鳴海倉庫運輸の社長である鳴海幸治だという一見、不可解な事件だった。
 警察や報道機関が総力を挙げて調査した結果、鳴海が立てこもった原因は、鳴海の違法行為を古株社員が問い詰めて意見したのに対し、鳴海が激高して拳銃を持ち出したためらしいと分かった。
 鳴海は、古株社員から問い詰められた後で、社員全員に二階の会議室に集まるように命じた。
 彼は親の跡を継いだ二代目の社長であるが、ボンボン息子らしく、人使いが荒く、すぐに切れて、八つ当たりする性格だった。
 社員の全員が、鳴海のことを恐れていた。彼の命令は絶対で、集まれと命じられて、三分以内に駆けつけなければ、暴言を吐かれ暴行を受けることになるのだという。
 だからこそ、社員たちは、その後に悲劇が起きることなど想像もせずに、ロボットのように駆けつけた。
 十四人の社員が集まったところで、鳴海は拳銃を取り出して、立て籠ったのだ。
 そのことを知らせてきたのは、取引先の社員安部真二だった。契約内容の確認のために事務所を訪れると、一階がもぬけの殻で、二階から激高した声が聞こえてくる。そっと覗いて見れば、鳴海が社員たちを隅に押しやり、二丁の自動拳銃を構えているのが目についたという。
 安部にのぞき見されていることに気付いた鳴海は、安部に向けて、一発発砲した。
 とっさに隠れて、難を逃れた安部は、直ちに警察に通報した。
 そして、千葉県警による包囲網が敷かれたというわけである。

 事件はあっという間に終わった。
 警察は鳴海の説得を試みようとしたが、その暇がなかった。

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