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2016年10月03日

藁の上からの養子 即独新米弁護士の事件簿3 (弁護士の事件簿ノベルズ(web限定版))







藁の上からの養子 即独新米弁護士の事件簿3 (弁護士の事件簿ノベルズ(web限定版))



 金なし、コネなし、実務経験なし。だけど熱意だけは誰にも負けない!即独新米弁護士三文純一に最大のライバルが現れる!後継者問題を機に会社乗っ取りを企む悪徳弁護士と法と中国拳法で対決!


 新米弁護士三文純一の顧問先の清掃会社社長月本真也が死去し、社長の一人娘で専務の月本奈々子が後継者に選ばれた。会社承継と相続手続きは難なく進むと思われたが、奈々子の従兄月本真司がベテランの弁護士富徳彰大をたてて、異議を唱える。
 古い日記を持ち出し、真也と奈々子の間には親子関係がなく、藁の上からの養子――特別養子縁組の手続きを踏まずに、他人の子を自分たちの娘として出生届を提出し育てること――だから相続人ではないと主張したのだ。奈々子が相続人資格を失えば、真司が兄弟姉妹の代襲相続人の立場になり、唯一の相続人となる。
 両者が激しく対立する後継者問題かと思いきや、真司には後継者になりたいという野心がなく、弁護士富徳彰大に何やら弱みを握られている様子。
 純一が、富徳彰大の陰謀を嗅ぎつけ、調べを進めると富徳彰大率いる武装集団に襲われ、奈々子や真司にも危険が迫る。富徳彰大は、純一に勝るとも劣らぬ、中国拳法――詠春拳の遣い手だった。
 はたして、純一は顧問先の会社を守り切り、無事に会社承継と相続手続きを終えることができるのか。


著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

(冒頭部抜粋)

 藁の上からの養子 即独新米弁護士の事件簿3

                            大滝七夕

 序

 コチコチに固めたオールバックの髪に虎を思わせる鋭い眼差しをした精悍な男だった。
 何かのスポーツで相当に鍛えたらしく、長身で筋骨隆々とした体つきをしている。年齢は四十台前後だろう。
 高級な黒スーツで身を固め、ネクタイは血のような赤。左衿に少し色あせた金色の弁護士バッチが鈍く輝いている。
 その堂々たるいでたちの弁護士がテーブルを挟んで向かい側のソファに縮こまるようにして座る、太りぎみで少し頭の薄くなった冴えない中年の男をじろりと睨み付けていた。
 皺だらけのチェックの長袖シャツに、穿き古したジーパン姿だった。ジーパンはきつくなってきたのかパンパンに膨れていた。
 終始おろおろとした様子で、弁護士がわずかに顎を動かすだけでも、ビクッと震える始末。
「払えないというのか?」
 弁護士が底光りする眼差しで中年の男を睨みながら、ドスの利いた声を放った。
「す、すいません……」
 中年の男が背中をゾクッと震わせながら視線をテーブルに落とした。
 弁護士バッチが付いていなければ、ヤクザが中年の男を恐喝しているように見えただろう。
 ここは、こぢんまりとしているが弁護士事務所である。
 壁に作りつけになっている本棚には弁護士事務所のスタンダートと言ってよい法律書や判例集がずらりと並べられていたし、部屋の中心には黒い本革のソファの応接セットが鎮座する。部屋の奥、すりガラスの窓に面した位置には、プレシデントデスクのセットがある。
 入り口の扉にはめ込まれた小さなすりガラスには、『富徳彰大法律事務所』の文字が刻まれていた。
 弁護士――富徳彰大と中年の男以外の人間はいない。つまり、この事務所は、富徳彰大の一人事務所なのだ。
「もっと節約すれば金を捻出できるんじゃないのか?そんなパンパンに膨れた腹をしやがって、カロリーの取りすぎだろう?」
 富徳の口から弁護士らしからぬ言葉が出てくる。中年の男に顧問弁護士が付いていれば、今の言葉を取り消して謝罪するように求めただろう。だが、中年の男にはそんな余裕はない。
「い、いいえ……。そんなに食べているつもりはないのですが……、食費はもうぎりぎりまで切り詰めていますし……近頃は酒も飲んでいません……」
「節約が限界なら、給料を上げてもらえ」
「そりゃもう……。めいいっぱい残業していますし……。これ以上稼ぐのは……無理です……」
「違げえよ。昇進させてもらえと言っているんだ。お前の叔父さんの会社だろう?」
「は、はい……。確かに、わ、私の叔父が経営している会社ですが……。昇進させてくれなどと頼めません」
「お前は叔父さんの会社で何をやっているんだ?」
「現場の仕事だけです……」
「営業の仕事はやっていないのか?新規に取引先を開拓するような仕事は?」
「それは、専務の役目ですから……」
「専務ねえ……。お前よりも十歳も年下で、しかも若い女の子なんだってな?」
「は、はい……」
「はい、じゃねえよ!」
 富徳がテーブルを拳でガツンと打った。テーブルの中央にあるガラスの灰皿がガタっと揺れた。
「す、すいません!」
 中年の男が首を竦めてますます縮こまった。
「月本クリーンサービスの専務、月本奈々子。年齢は二十五歳だってな?」
「そ、そうです」
「で、お前の地位は?」
「清掃現場作業チームのリーダーです」
「リーダーって言うのは、何人いるんだ?」
「清掃現場に一人ずつです」
「リーダーって言うのは、一応社員なんだな?」
「そ、そうです。バイトの作業員を取りまとめる役です」
「要するにバイト君と一緒に汗水たらして掃除している、社員の中でも一番の下っ端というわけだ?」
「そ、そうです」
「月本クリーンサービスの社長は月本真也だな」
「そ、そうです」
「お前の名前は何だっけ?」
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