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2017年04月20日

文才のない彼女を200万部のミリオンセラー作家にする方法




文才のない彼女を200万部のミリオンセラー作家にする方法


毎度一次選考落ちだった彼女が、突如、大人気の売れっ子作家になれた秘訣とは?

天才美少女作家彩乃飛鳥の登場に出版界は色めきだつ。だが、すべては、冴えない男子高校生作家、森山浩史の華麗な演出にすぎなかった……!
浩史は十六歳で作家デビュー。しかし、第一作が泣かず飛ばずで、十八歳になった今では、担当編集者からも完全に無視されている。そんな彼が、起死回生を託したのが、ラズベリー文庫新人賞――美少女作家しか輩出していない文学賞で、男の受賞歴はない。過去には、最年少美少女A川賞作家を輩出した由緒正しい文学賞なのだ。
性別を偽り、彩乃飛鳥の名前で応募した作品が見事に最終選考に残る。編集長から連絡を受けた浩史は、替え玉として同じ高校に通う女子――アイドル並みのルックスの美少女を用意する。浩史の作戦がほぼ成功しかけた時に、思わぬ事件が次々に起きる。
芸能人ばかりを使う売上至上主義の出版界を見返してやろう!と始めた冴えない男子高校生作家の戦いの行方は如何に?


著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


(冒頭部抜粋)


 文才のない彼女を200万部のミリオンセラー作家にする方法

                            大滝七夕

 1、爆死した現役高校生作家森山浩史

 六法全書をドシンと閉じた時、自習用机に振動が起きた。
 隣の自習席に座っていた名前の知らない女子が、衝立の向こうから顔を上げてじろりと睨み付けて来る。おまけに人の自習用机をのぞき込んで、「なんで六法全書なんて読んでいるのかしら」とあからさまな舌打ちをしたようだが、森山浩史は、「しゃらくせえ!」と心の中で叫びながら、ノートにボールペンを走らせていた。
 スクールカーストの最下層?成績は中の下?それが何か?この名作を生み出せるのは世界で俺一人だけ。学校の上位に位置していることに甘んじている井の中の蛙大海を知らずの凡庸なあなたたちは、単語帳をめくって、ちまちまと英単語を覚えていなさいよ。俺は、小説の執筆と言う大海原をゆくような崇高な頭脳プレーに従事していますから。
 横手の窓からは拡大鏡で凝縮されたも同然の日差しが浩史の坊主頭と小さな背中を焦がしている。ここは、冷暖房完備の図書館。おまけに、衣更えしたばかりで、本来ならYシャツの腕まくりをするには早すぎる時期だ。
 両腕を露出した浩史は、額に汗を浮かべていたが、ボールペンを止めない。額から一粒汗がノートに落ちるがそれが何か?油性ボールペンならば、文字がかすまない。少しくらい濡れたってヘッチャラ。
 思いつくそばから、ノートに言葉を刻み込んでゆく。思いついた時に書きつけなければ、同じ名文は二度と生まれない。大学ノートを縦書きに使い、びっしりと文字を刻み続ける。ノートの残りは、五ページほど。
 今、書いているのは、最終章。起承転結の結。プロットの最後。クライマックスに向けて一気に書ききれば、第一稿が完成する。
 と……。ボールペンのインクが減ってきたらしく、文字がかすれてきた。やばいぞ。と思いながらも手を止めない。だが、会話文の途中まで来たところで、とうとうインクが出なくなった。ノートの端でペン先を圧してぐりぐりしてみるが、ノートにへこみができるだけだった。
「畜生……。あともうちょいで書き終わるのに……」
 デニム製の筆箱の中を探ると出てくるのはシャープペンと赤のボールペンだけ。予備の黒ボールペンを持っていないということに気づく。
「はあ……。ゲームオーバー」
 深い吐息と共に背もたれに寄りかかった浩史は、この時になって初めて、自分の自習席だけ、強い日差しに照らされていることに気づいた。
 汗ばんだワイシャツのボタンを一つ外し、パタパタさせて、冷気を取り込みながら、立ち上がった。
 窓際に歩み寄ると、レースのカーテンを引いて、午後の三時過ぎの一番暑い時間帯の日差しを遮る。六月になったばかりなのに、真夏のような暑さ。このところ、気候も世相も番狂わせだらけだ。一体、梅雨はどこへ行ってしまったのだろう。
 幾分、日差しが和らいだが、自分の自習用机に目を向ければ、まだ、陽が注いでいる。
「しょうがねえ、移動するか……」
 と、周りを見渡した。
 だが、直射日光の当たらない条件の良い自習用机は、満員御礼状態。顔ぶれは毎度毎度同じ。怖い顔をしてテキストを読み込んでいる相撲取りみたいな体つきの男子の他、女子生徒もたくさんいた。
 皆、浩史と同じ公立木犀高校の三年生である。この時期、来年の大学受験に向けて、誰もが、必死に勉強しているのだ。
 浩史は、やむを得ずにレースのカーテンだけでなく、黒い暗幕も閉めようとした。途端に、「おぉーい!」とかなり遠くから野太い声がかかる。
 ふり返ると、相撲取り男子がすごい形相で睨み付けていた。学年でトップの成績を維持しているという噂の元生徒会長だ。図体も顔も広い。彼の一言には生徒も教師も一目置く。
「何?」
「何じゃねえ!暗いんだよ!」
 そういう相撲取り男子は、牢屋主の如く、直射日光が当たらず、冷房の恩恵を最も受ける上座に陣取っている。
 相撲取り男子の声に呼応するように、他の生徒たちの無数の視線が一斉に浩史を貫いた。咎めるような眼差し。皆、無言だが心の中ではこう叫んでいるのが分かる。
「暗いんだよ!暗幕を閉めるんじゃねえぞ!」
 一対多数。多数決が当たり前の現実では、冴えない男子一人の意見など風の前の塵に等しい。多数派を牛耳る強者の意見がまかり通り、弱者の意見など取り上げられない。
「すいません……」
 刃のような視線の集中砲火を浴びて、蜂の巣状態になった浩史は、作り笑いをしながら、おずおずと暗幕を元の位置に戻した。
 浩史が席に戻る時には、生徒たちの視線は手元のテキストや問題集に向けられており、暗幕のことで抗議したことなど、すっかり忘れているようだった。
 この高校で尤も居心地の良い場所は、ここ――管理棟三階の図書館だ。冬場は暖房、夏場は冷房が、常時、ガンガン効いている。おまけに衝立で仕切られた自習席を完備している。生徒なら、学年を問わず、無料で利用できるのだから、この部屋を活用しない手はないだろう。
 三年生になると大学受験を本気で意識している生徒は、図書館で過ごす時間が多くなる。それもそうだ。ここ、公立木犀高校は、トップクラスの高校ではないけど、そこそこの進学実績があり、生徒の大半は、名の通った大学に進学する。
 浩史は……?
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