食える行政書士だけが知っている孫子の兵法の読み方3 実録行政書士開業十年5 (行政書士の事件簿ノベルズ(WEB限定版))

投稿者: | 2020年12月4日

(冒頭部抜粋)

 食える行政書士だけが知っている孫子の兵法の読み方3 
                     実録行政書士開業十年5

                              大滝七夕

 ※この著作は前作――『食える行政書士だけが知っている孫子の兵法の読み方2 実録行政書士開業十年4』の続編です。前作、前々作をお読みいただいていることを前提に話を進めていきます。

 行軍――これを知らずして開業したら地獄を見る

 1、高い位置に布陣するライバルに突撃するな

 孫子の兵法行軍編は、歩兵部隊が戦場に出た際に気を付けるべきことがまとめられている。サバイバル教本と言ってよい内容で、今日でも、陸軍の歩兵部隊等に配属されたものであれば、必須の知識と言える。
 ビジネスの場で、ここに書かれていることが直接役立つことはない。
 しかし、石橋を叩いて渡るがごとき孫武の慎重な思想は、幾多の罠が待ち構えるビジネスの場でも参考になる。警句として読んでみよう。

 先ずは、孫子の兵法の一節をお読みいただこう。

 孫子曰く、凡そ軍を処き敵を相するに、山を絶れば谷に依る。生を視て高きに処る。降きに戦いて登る無かれ。此れ山に処るの軍なり。

 孫子が言うには、軍隊を宿営させたり敵情を判断する際には次のようにしなければならない。山を越えたら谷に依拠し、高い場所を探して宿営する。山を登る形で突撃してはいけない。山岳戦の基本である。

 山岳戦においては、高い位置を占めた側が圧倒的に有利になる。攻め下るときは勢いがつくし、今日のような銃撃戦主体の戦いでも、上から狙撃する方が圧倒的に有利だからだ。
 このような位置関係になった場合は、無理して、下から攻め上ってはいけないということである。

 行政書士事務所でいえば、山岳戦で高い位置を占めているのは、実務経験の長いベテランの行政書士事務所と言うことになろう。社会的な地位も知名度も資金力も何もかも、開業したての新人行政書士よりも圧倒的に優位な立場にある。
 開業したての新人行政書士がそのような圧倒的に優位な事務所と正面対決したって、勝ち目などあるわけがないのだ。
 ベテランの行政書士事務所と同じ分野で張り合ったり、隣近所に事務所を構えるのは、愚かしいとしか言いようがない。そうした事務所と正々堂々と戦ってはいけないのだ。その事務所に目をつけられないように、隠密に活動して実績を積むことが基本方針になる。

 隠密に活動する方法として有効なのが、前作――『バイト補助者からの成り上がり 実録行政書士開業十年』や『食える行政書士になりたければネットも営業もやめよう 実録行政書士開業十年2』で紹介したチラシ小説である。ターゲットを絞って、チラシ爆撃を仕掛けるというやり方だ。
 広告を出すと、どうしたって有力事務所の目に留まってしまうし、セミナーをやりますという知らせをばら撒いた場合でも、有力事務所からスパイが送り込まれないとも限らない。
 チラシ小説によるチラシ爆撃であれば、クライアントや見込み客が横流しでもしない限り、有力事務所に活動内容が知られることはないのだ。

食える行政書士だけが知っている孫子の兵法の読み方3 実録行政書士開業十年5 (行政書士の事件簿ノベルズ(WEB限定版))

 行政書士は食えない、役立たない資格。だからこそ、食えるのだ――。金、経験、人脈なしの最悪の状況で開業した私が、孫子の兵法によって悟りを開き、たどり着いた境地とは?

 行政書士は食えない、役立たない資格だ――。
 世間ではそのように言われています。果たして本当でしょうか?

 お答えします。食える人は食えるし食えない人は食えない――。
 ではなくて……。
 はい!その通りです!食えなくて、役に立たない資格です!営業許認可とかも、別に行政書士を介さず、自分でやったっていいんです。婚姻届け出とかも、行政書士の仕事ですけど、こんなのをわざわざ、金を払って他人に頼む人はいませんよね――。
 結局、行政書士なんていうのは、文盲の人がいた時代に、彼らのために代書していた資格なんです。教育が進んだ今の時代、障害でもない限り、字の読み書きができない人はいません!よって、行政書士なんて役目を終えた役立たない資格なんですよ――!

 私は、行政書士は食えるのかという質問を受けた時は、このように答えています。
 すると、質問した人は、唖然としてこう訊ねて来ます。
「あの……。あなたは行政書士ですよね?」
「ええ、そうですよ」
「あなたもやっぱり食えていないのですか?」
「いいえ。今、言ったことは、世間一般のイメージであり、私は、食えていますよ。補助者も雇っていますし、年間一千万以上、楽々稼げています!」
「その秘訣を教えて頂けますか?」
「はい。一言でいえば、行政書士が食えない資格だからです!」
「はあ……?」

 ここで鋭い人ならば、次の言葉にピンとくるのではないでしょうか?そうです!
 ヒヨコ狩り――。
 開業したての、あるいは、開業しようとしているヒヨコみたいな可愛い可愛いピカッピカッの新人ちゃんを集めて、開業セミナーを行い、
「私の言うとおりにやれば食えますよ!もしも、食えなかったら……大丈夫!私と同じように開業セミナーをやればいいんですよ!」
 こうやるわけです。
 食えない資格だからこそ、ヒヨコ狩りが横行するんですね。

 が……、惜しいかな、惜しいかな。私は、この手の開業セミナーを開催したことは一度もないですし、参加したこともありません。

 私には、人様に披露できるような経営に関する知識も経験もありません。そもそも、私は、人見知りしますし、引き籠り体質で、友達もほとんどいないし、行政書士には全く向いていない人間です。
 人前に出るとガチガチに緊張して挙動不審になってしまいますから、セミナーや講演なんてやりません。大金を積まれても、土下座されて頼まれてもやりません!
 そんな私が行政書士事務所を開業し、利益を上げ、補助者を雇い、事務所の規模を拡大してゆくことができているのは、幼少の頃より『孫子の兵法』を諳んじていたから。それだけです。

 第三巻は、次の項目を掲載しています。

 行軍――これを知らずして開業したら地獄を見る
 地形――弱小事務所がベテラン事務所と戦うための秘訣
 九地――ブラック企業認定上等!24時間365日死ぬまで働け!
 火攻――口コミを爆発的に広げるためのヒント
 用間――情報収集と情報分析を怠る者には死神が憑く

 孫子の兵法の解説はこの巻で終わりです。一巻から三巻まで、すべてお読みいただけば、孫子の兵法の発想を行政書士事務所の経営においてどのように活かせばよいのかがお分かりいただけると思います。

 一人でも多くの方に、行政書士で成功していただきたい。そう願い、私の十年以上の経験をすべて詰め込み、この著作を完成させました。

 これから開業しようと思い立ってから、読むのでは遅すぎます。受験生のうちから、知っておいていただきたいことばかりです。と言うより、ここに書かれていることを知らずして開業すると確実に失敗します。

 とりわけ、行政書士事務所の補助者の求人を探している方は、この第三巻をよくお読みください。補助者の求人の探し方や、補助者として働く際の心構えが随所に出てきます。
「いずれ、独立すれば、今働いている事務所とはライバル関係になるんだから、この事務所のために、尽力してどうするんだ。仕事のやり方だけ覚えたら、サッサと独立するんだ。だから適当に仕事しておけば良い……」
 などと考えていないでしょうか?そう考えているとしたら、大損ですよ。

 また、この著作で述べていることは、行政書士だけでなく、弁護士、司法書士、税理士、社会保険労務士と言った士業全般にも応用できます。
 『孫子の兵法』を忠実に実行すれば、行政書士でも食えるんです。他の士業ならばなおさら食えます。
 行政書士でも一千万以上稼げるのです。弁護士なのに年収三百万に甘んじるなんて、なんてあまりにもったいない!

 ここまで、長々とお読みいただき、ありがとうございました。

 ※※※※※

夢咲弁護士「んっ……ちょっと、七夕?」
七夕「どうしました?」
夢咲弁護士「九地――ブラック企業認定上等!24時間365日死ぬまで働け……。これどういう意味?」
七夕「その言葉のとおりですよ」
夢咲弁護士「本気なの!労基署に訴えられるわよ!」
七夕「九地編には、補助者に手抜きさせず全力で働かせるコツが書かれているんですよ。だからこういう見出しの方がいいかなって」
夢咲弁護士「こんなこと書いたら、私たちが、稼いでいる秘訣は、補助者を安い賃金で奴隷みたいにコキ使っているからだって、思われてしまうじゃない!」
七夕「そんなことないですよ。うちの事務所の補助者の給料って、大手企業並みの水準なんですよ。遅くても午後八時には、みんなのことを家に帰しますし、福利厚生もばっちりだし、おまけに週休二日制だし、資格の勉強をする時間もたっぷりとれるし、ブラック企業とは程遠いじゃないですか」
夢咲弁護士「でも、この見出しはやめた方がいいわ。訂正して!」
七夕「この方がインパクトあるし……。24時間365日死ぬまで働けと言うのはある意味、本当だし……。大丈夫!ポチッ!」
夢咲弁護士「ああっ!七夕!」

投稿完了――。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
大滝 七夕
法学部在学中に行政書士、宅建等の資格を取得し、卒業後は、行政書士事務所、法律事務所等に勤務する傍ら、法律雑誌の記事や小説を執筆し、作家デビュー。法律知識と実務経験をもとにしたリーガルサスペンスを中心に、ファンタジーや武侠小説などを執筆している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)